2012年 08月 03日 ( 2 )

困ったもんです。

父ちゃん(台風9号)、母ちゃん(台風10号)を追って、チビちゃん(台風11号)がこっちに向かってます。

e0028387_1131425.jpg


あー、チビちゃん、チビちゃん、奄美を通り過ぎた後、ウロウロしないでちょ。
本日から、芝集落の区長さんをなさっていた豊島良夫さんの「深浦物語」の連載を始めます。

「深浦物語」は、2006年にこのブログで連載しカテゴリ「豊島良夫覚書」にまとめてある「瀬戸内千夜一話物語」に続く「私の千夜一話」の別冊2にあたり、最近書き終えたもので、なんと676夜から708夜のお話となります。

内容は、豊島さんが35歳ごろ迷い込んだ青年から聞いたストーリーと、豊島さんの島に帰ってからの農業や生活のことなどです。

それでは、豊島良夫ワールドをお楽しみ下さい。なお、著作権は豊島良夫さんにあります。


676 きっかけ

奄美の古仁屋という町までたどりついた。さらに田舎に行きたい。私は船着き場のベンチに座っていた。

「どっこいしょ。」60歳ぐらいの叔母さんが腰かけた。少し会釈をして席を広げた。船の出発までは30分ぐらいある。うつむいて、たまに時計を見て時を過ごした。

叔母さんが立ち上がったので、よろよろ私も立った。重たそうに両手に荷物を抱えていたので、私はその荷物を手伝った。

「観光ですか。」「はい。」私は小さな返事をした。

船は出発した。他に5、6名乗っていた。皆、小さな船室に入ったが、私は船の艫(とも)に乗って景色を眺めた。山が青々と見えた。いくつか岬や小島を通り過ぎて、真っ赤な花が咲いた大きな木のある岬を通り抜けると湾に入った。

先ほどの叔母さんが船を降りようとした。私は叔母さんの荷物を持って一緒に降りた。

船の待合室や船で何度も目が合った。どうやら叔母さんに見守られていたような感じだった。荷物を家まで送っていった。

「入ってお茶でもあがりなさい。」叔母さんは茶菓子をすすめた。外に出て先ほどの岬の真っ赤な花の大木を見にいった。ここにテントを張ろう。真白い砂浜に寝袋をのばし、そのまま寝てしまった。

「サクッ、サクッ」足音がして目を覚ますと、「おはよう。」叔母さんが声をかけた。
「おはようございます。」「一緒に朝日を拝みましょう。」起き上がって砂浜から岩場に出て二人で手を合わせた。

すぐ近くに灯台が見えた。あれが、オネンザキ(ウハマの)灯台。遠くにもう一つ灯台が見えた。あれが西古見の灯台。

「お昼、うちにいらっしゃい。」叔母さんは帰っていった。

近くの灯台の間を船が大小何隻も通過した。カモメが群れで東に飛んでいった。砂浜にカニやヤドカリがたくさん足跡を残していた。

昨夜、明るいうちから寝袋にもぐったのですっかり疲れがとれたのか、体が軽かった。爽快という言葉を思い出した。素足で渚に入った。何か四方に逃げていく。思わずすくい上げると、カニともエビとも似つかない生き物を見た。砂堀りというそうだ。はなに大きなスコップが付いている。初めて見た。

岩場に出た。魚がうようよいる。赤い花の木の下から山に出た。すぐ空家が2、3戸あった。家財道具も畳も無かったが、つい先ほど引っ越したのだろう、庭の草花も掘り出してあった。

天気が悪くなれば浜のテントからここに逃げ込めば良いと思った。
  
2日目、叔母さんに昼食に招かれた。90歳ぐらいの老女がもう一人いて座っていた。軽く会釈をしてその横に座った。

炊き立てのご飯、こんなに美味しいものだったのかと思った。お刺身も大きな皿に山盛り出た。今までにこんなに山盛りを見たこともなかった。お酒も湯呑で出された。これだけは手を出してはならない。何か心の隅で父を思い出した。

お椀にお餅とキノコ、卵が入っていた。たくあんも二切れ添えられていた。昨日買ってきたバナナも添えられていた。

「ゆっくり上がりなさい。」私は頷いたものの早食いの方だ。久しぶりに満腹になった。

「長い休暇ですか。旅行ですか。」私は、旅行です、と言ってしまった。
「それではしばらくここに住んでみなさいよ。」と言われ、その気になった。

昼から叔母さんと空家探しに出た。浜に面した山の谷間谷間に2、3戸ずつ5か所ほど、15戸か20戸、空家が点在した。叔母さんちに近い大きな屋敷の一番大きな家を選んだ。

「ここが良いかもね。」すぐテントを畳んでリュック一つで引っ越した。この屋敷はまだ空家になって間もないと見えて家財道具も殆ど残っていた。午前中、砂浜で見たヤドカリに私もなったのだ。

「家主も近くにいるので声をかけてみます。そのうちに一度会ってみなさい。きっと喜ぶと思いますよ。」こうして家を借りて住みついた。

電気、ガスはストップしたままだったが、叔母さんが2、3日中に世話してくれるそうだ。

翌朝10時ぐらいに目が覚めた。外を見ると庭で叔母さんが草を取っていた。慌てて私も起きて草取りをした。

「お茶をあがってからにしなさい。」叔母さんがポットにお湯を持ってきた。買ってきたパンを食べた。

「今夜からうちでご飯をしなさい。おばあさんと一緒に。下宿しなさい。」叔母さんは私の食糧の乏しいことも察していたのだ。

納屋を2人で開けてみた。スコップ、ホーク、鎌、鍬が整然と並んでいた。ランプも5個ほどあった。3年ほど前まで使用したそうだ。一升瓶に灯油をもらってきて古いのと替えて点けてみた。おばあさんがローソクを10本ほどくれた。時々停電になるので、灯油、ローソクは欠かせないそうだ。

お風呂は露天風呂だった。浜から流木を拾ってきて沸かした。お盆にタワシのようなサンゴの石を拾ってきて、少し水を張り、ローソクを立てた。おばあさんから教えてもらった。ランプもローソクも初めての経験だ。

夜中に目が覚めた。波の音が聞こえてきた。アマガエルが一匹鳴いている。どうしてここまで来たのだろう。連想した。
by amami-kakeroma | 2012-08-03 10:30 | Comments(2)